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nikki

ベベでレザージャケットを買う

 先週の金曜日に半休を取っていたのをすっかり忘れていて、給与締め日までに休む日を調整しなければならないため急きょ木曜日の午後に休みを取ることにした。しかし半日勤務の日はすっぱりと退勤できることが中々なく、結局午後3時過ぎまで職場にいて、仕事が終わったら新宿に書類を出しに行った。丸の内線の西新宿という駅で降りて帰りは大江戸線の都庁前駅から乗った。
 先週から江古田駅前のベベの閉店セールが始まった。2月6日の仕事帰りに店の入り口の周囲に大きく「閉店売尽し!!」と出ているのを見て、いつものように早く帰宅するために素通りするところを思わず立ち止まって確認した。ベベも閉店か、と目の前の現実を受け止めながら、20年ほど前に炎のようなニックネームの後輩と当時閉店した定食屋の竹とんぼの豚スタ(豚肉のスタミナ炒め定食)を自分たちなりに再現しようと、ベベの地下フロアで中華鍋を買ったことを思い出していた。サンアダチがなくなった江古田では何やかんやと日用品を買うにはベベは便利なところで、かと言って頻繁に買い物をすることもなかったが、困ったときにはまあまあ頼りになるところだった。1階や2階には衣類もあって、地域の高齢マダムにとっても便利な場所だったろうと思う。
 閉店セールが始まった翌日の土曜日、時々見に行っていた地下フロアのヒーターでも見てみるかと行ってみると、店内は普段目にすることのない人だかりだった。体を洗うタオルと皿を洗うスポンジを買ってから美容院に行き、ベベの話をすると、他のお客さんも残念がっていること、特におばあさんたちはこれから何処に行けば良いのかと漏らしていること、建物の耐震工事をしていないこともあって取り壊しになることなどを聞いた。この美容院のオーナーは尋ねるといつもいろいろ町のことを教えてくれる。余り行くことはないが、ベベが江古田のランドマークのような場所だと思っているのが自分だけではなかったことが分かって少し嬉しかった。髪を切り終わってからまたベベに行った。
 今度は、手持ちの長袖の寝巻がボロボロなのでいつかベベで探してみるかと考えたことがあったのを思い出して2階の売り場にも行ってみた。パジャマはとてもたくさん種類があったが、これはというものはほとんどなく、他の服もいろいろ見てみた。仕事用のワイシャツを吟味して2枚選び、これまで自分では買ったり着たりしたことのないような雰囲気の服の数々を新鮮な思いで眺めていたら、割と良い感じのブルーのレザージャケットが目についた。元の定価は割とするが、値札を見るとかなり値引きされていた。ちょうどブルーのレザージャケットで良いのはないかとふと思い立ってネットで探したことがあったばかりだったから絶好の機会と思ったが、値引きされていたとはいえそれでも安くはないのと、ベベで売られているだけあっておじさんの自分が着るにしてもより一層おじさん感が増すアイテムだっただけに、衝動買いはせずこの日はワイシャツの他に靴下を買って帰った。
 翌日曜日、午後の用事の前に急いでベベに行き、5分ほど店内を見て店を出た。昨日のレザージャケットはまだ残っていたが、店内は品数が減って売り場がコンパクトになっていた。

 さて話は木曜日に戻り、大江戸線の新江古田駅で降りた。半日勤務の日にも関わらず大して早くもなく、むしろいつもの1日働いた日よりほんの少しだけ早いくらいの時間だった。このまま帰るかどうか少し考え、またベベに行った。とても風の強い日で、新江古田の交差点から北に走るバス通りを歩きながら埃や花粉にまみれるようだった。週末になるとまた来店客が増えるだろうから、なくなる前にあのレザージャケットをもう一度見てみようと思ったのだ。
 店について地下フロアに行くと、品物の数がさらに少なくなって売場にゆとりというか隙間が増えたように見えた。買うものもなく2階の紳士服売り場に上がると、ブルーのレザージャケットはすぐ目につくところに展示されていた。トルソーに着せられてインナーのニットや黒いズボンと一緒に飾られているのを一目見て、ラックにかかっていた時よりも一層強くおっさんぽい印象を持った。しかも分かっていたことだが、サイズはLだ。自分の体形が変わってきていたとは言え、Lサイズの服は買ったことがない。フロアはレイアウトがかなり変わって、端の方は品物もなくがらんとしてパーテーションで遮られ、カバンや靴売り場は置いてある商品も少なくなっていた。関係ない服を眺めながらウロウロして一度フロアを離れて、階段の踊り場でおっさん風のレザージャケットの着こなしをスマホで調べてみた。そして一度着てみるしかないと心を決めて、またフロアをうろうろしながらおばちゃんの店員さんに声をかけて試着させてもらった。悪くはないが、鏡に映ったおっさんそのものの自分の姿にためらいながら、「レジにて全品20%オフです」とか「取り壊しになるので…」などと店員さんが言うので、オフになるのも取り壊しになるのも知っているよと思いながら購入を決めた。平時に他の店で見たとしたら買わなかったかも知れないが、もう買う機会のない1点ものであること、この週末に更に値引き額が大きくなったらさすがに売れるかも知れないこと、閉店するベベのことを思い出すよすがになるなど、いろいろ考えた。土曜日に見た時より更に安くなっていて、元の売値の半分以下になっていた。それが更に20%オフになってもまだ安いとは言えないが、同情心でこれ以外にもう買うものもないだろう、とどこかすっきりした気分にもなった。普段は先ず購入の選択肢に加わることもなかったベベで買った服をこれからどう着るか、工夫は出来そうに思えた。
 明くる金曜日、何となくのんきに仕事をしていたが、午後になると翌日のイベントの準備で余裕がなくなってきた。医療業界は割にクラシックな体質なのか昔ながらの習慣を持つ人が何人かいるというだけのことなのか分からないが、何種類かのチョコレートがどこからともなく配られて、男女関係なく付近の職員に行き渡った。そんな中で、いつもくたびれた様子で仕事をしている僕を励ますためか同僚2人がチョコレートをくれた。遅くまで翌日の準備をして、くたびれて帰宅したら、宮城の親戚から荷物が届いていた。何となく「捨てる神あれば拾う神あり」ということわざを思い出していた。
 土曜日の午前は職場のイベントで、終わったらゆっくり昼食をとる時間もなく一人で仕事に取り掛かった。あと少ししたら帰ろうと思いながら夕方になり、カーテン越しに日暮れを感じて焦りつつ、帰る頃には日が暮れていた。今日はいつも起きる時間に目が覚めたが、疲れが取れず、何度か寝たり起きたりを繰り返して昼過ぎまで寝ていた。その後も寝ては起きて過ごし、何をしたということもない休日になった。